臨床心理技法の真価と展開局面について [心理]
公認心理師法が施行され1年が過ぎた。臨床心理士有資格者をはじめとしたTherapistが基本技法を日々陶冶し創意工夫の中で技法を磨き展開させていた頃と顕著に異なることは、技法が平準化(金太郎飴化)されている。誰でもができる技法となるとその社会的評価は、差別化が難しい側面が生じてくる。新しい国家資格と会計年度任用職員制度は、心理士にとって「価格破壊」の序章でもある。それでもCounselorやTherapistの存在に重きを置いて高く評価してくださる所は有難いが、心理士(師)としての過大な責任を続けてきた動機づけを保つことができるかが危惧される。労働条件の明示を十分に行わず、説明と同意がない中で大幅カットされた報酬基準の導入をはじめ、必ずしも適正評価が保たれるとは限らない場面が増えてきたことを聴き、守秘義務、多職種との連携義務、構造化された面接場面の補償、アセスメント、緊急対応、技法の適用等、複数の過大過ぎる責任への動機づけを保ち続けるためには、心理士(師)を守ろうとする姿勢の強さの程度に応えて、諸技法を展開する場面を振り分ける必要を感じている。
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永年築き挙げられ守られてきた心理士の評価が採用担当者の判断により一夜にして崩れ去る時があることを感じているこの年末、最近のスーパービジョンの機会で若い心理師から伝え聞くことを踏まえると、公認心理師資格が始まった中で、従来の臨床心理士の中に、様々な経験を経てきた人が公認心理師を名乗り、臨床心理技法を質的に変容させている現実を感じている。
かつて臨床心理士が作られた時は、様々な臨床心理技法が百花繚乱の状況で、新しい技法を学び、自らも臨床場面で磨いた技法を展開し、効果的な結果が導かれることに喜びを感じていた。確かにその評価は様々な面もあったが、少なくとも自分の目の前に現れたクライエントは苦しみの中で打ちひしがれていた状況から喜びの表情に変わる姿を目の当たりにして、技法を学び統合して進化させていく意義と必要性を感じ、日々鍛錬を続ける苦労にも誇りと意義を感じていた。
そして公認心理師法が制定されて主治医の指示の下に技法を展開する等制度改正される中で、安全性が担保される方向に意図していると解される反面、臨床心理技法、Counseling技法の進化が一定の枠内で進化をとめ、創意工夫を重ねてきた技法が十分に進化していかない状況が生じてきていると感じている。それが顕著となっているのは、会計年度任用職員制度の中で雇用される立場の心理師の予算が大幅に削減されている現実に危惧を感じている。それは従来、臨床心理士の用いる技法が高く評価されてきたのに対して、公認心理師を併有したり新たに加わった現実の中で、資格を持てば、誰でも知っていて展開できる技法であり、言わばどこを切っても同じ顔が出てくる金太郎飴のような評価がされていると心理師資格を持つ複数の中堅の臨床心理士はスーパービジョンの過程で自己開示している。
心理系の大学から臨床心理士系の大学院に進み、資格を取り現場に出たとしても安価で採用されるシステムが確立してしまうと、これまで投下してきた資本回収することも難しく、仕事として続けていく動機付けが希薄になるとも中堅心理士は吐露している。自身の経験では、臨床心理士の資格やCounselor資格が確立する過程の中で、様々な学会や研究会に参加しモデリングやロールプレイ実習を通じてCounselorのみならずクライエントの体験も積みながら、年度年度の契約更新にも耐え10年も15年もの長きに渡る間、臨床経験を積み重ねてきた。その苦労を思えば、当初から認められてきた評価は、当然のものだったのではないかと思う。しかしながらこの度の様々な制度改正の中で、その苦労に対する評価が変貌を遂げてくる端境期にあるように思う。
教育や医療の場面で、医療機関でも対応が難しいクライエントへの心理支援が求められる。時に、いじめによる生命の危機やその周囲に影響を及ぼすクライエントに対して、本来の心理師であれば困難なケースに対して、自ら培った技法を役立てることで、解決に導いてきた。しかしながらそれは面接の構造化が許された環境の中で自身の技法を自由なイマジネーションを醸成しながら展開してきたからであるし、それに対して感謝の気持ちを述べられるとともに十分な評価が報酬の面でも約束されてきたことで、当該心理士の業務を命を懸けて続ける覚悟が根付いてきたからに他ならない。
しかしながらこの度の会計年度任用職員の制度をはじめ様々な評価を低減させる諸条件の変更を目の当たりにすると、これまでの自分の臨床技法は、限られた局面で用いることにならざるを得ないと予測している。なぜなら心理士(師)の価値を下げる評価をされているのであれば、その評価に沿った技法を適用すれば足りると考えることが自然だからである。かつて臨床を始めた頃は、魂を削りながら今この瞬間のクライエントに寄り添いクライエントの主訴解決に向けて全力を注いで来たが、その営みに対する評価が説明と同意がない中で、明らかに低下させられる現実があれば、予算が限られている中では、心理士(師)の労働力が日々無理なく健康で文化的な生活を継続して営めるよう適度な配慮をしながら日々の仕事に注力すると良いと若い心理士(師)には伝えている。自分の日々磨いてきた技法については、説明と同意がない中で、一方的に評価を下げる意思表示をした雇用先とは一線を画する形で、主に価値を認めて下さる雇用先と私設心理相談の領域で展開しクライエントの主訴に精一杯寄り添うよう差別化せざるを得ないと感じている今日この頃である。
2019-12-22 10:00
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